hamaji junichi

composer saxophonist

2012

2012年、僕が最初に聴いたのはベートヴェン晩年のピアノソナタ 第31番。

第3楽章の序奏から「嘆きの歌」までの有名なフーガに到る前の厳かにして静謐で寡黙な礼拝を想わせる楽想に心を洗われながら、僕が「音楽」と口にするのと一般に音楽とよばれるものとの乖離(断絶と言ってもよい)の「根拠」を言葉として自身の内部にむけて現してみた。何故、今僕が僕自身の内部にむけて「それ」をひっそりと宣言しなければならないのか。それは昨年の年末福島諭さんからいただいた「アルテス」という書籍のなかの討論での三輪眞弘さんの発言を読んだからだし、吉岡洋さんの文章の一節を読んだこととも関係している。先日、僕が音楽を語る時「外堀を埋めるようにそれを表白しようと試みるがそもそもそれでは[それ]を語ったことにならない」と書いた。[それ]は言葉にした途端たちまち霧のなかに連れ込まれる危うさを孕んでいるが、いつも僕の内部にはっきりとした輪郭をもって存在しているものであり、薄くよく切れる刃のような切実さをこちらに絶えずむけている。僕はそれにこたえなければならない。

*断っておかなくてはならないが、「アルテス」は今回先の震災の「3・11と音楽」というテーマで発行されているが、僕が自身の内部にむけて宣言したもの、こたえなくてはならないものは震災とはまったく関係がないことを改めて書いておきます。