hamaji junichi

composer saxophonist

「変容の対象」2011年度版初演2日目

まずは今日(10月20日)の話。「変容の対象」の今月3−4小節目を書く。3小節目の組織は自分の手法を引用するようなもので、少し判断を迫られたがそのまま書いた。それは以降に想定しているものがあったからで、必然としか言いようがない。そして4小節目に流れる想定していたものを書いた。近く福島さんに送る。


***初演当日

新潟2日目。午前中に福島諭さんと宿泊先でおちあい、ほどなくスペースYへ。新しいホールで、ヤマハのビルの最上階にあった。福島さんと会った時は寝起きだったのだがやたら身体がだるい。ので、「だっる〜」と連発していたのだが時間が経つにつれこれ「これ風邪じゃね〜の?」と気付き始める。新潟に行く前にも風邪をひいていて、なおりかけてまた新たな風邪をもらう。何も今日でなくても良いじゃない、、、神様よう。、、、で、ゲネまでに完全に風邪で熱が出始めた。まずはクラリネットの広瀬寿美さんとお会いして軽く挨拶を。ほどなくピアノの石井朋子さんともご挨拶し、ゲネに。お二人とは初めてお会いする。

 「変容の対象」という作品はひと月に1作品、1小節を交互に編んでゆく(しかもその1小節は絶えず可変する。例えば4分の3の次には4分の64とか、もはや拍子を表すものではなく、ある時間の帯域を表すような)もので、他の作曲家さんも仰っていたが誰かが曲の最初から最後まで書いてそれをもとにもう一人が書いて曲を完成させるものではない。なので、曲の様相は手がける作曲家の主体が音に現れ、頻繁に入れ替わるし、拍のまとまりといったものも変則的なものが頻繁に現れる。譜読みの困難さ、演奏の困難さ、はそういった作品故のものだし、実際演奏家のお二人はとても苦労されたと聞いた。まずはこの作品の概念から福島さんは説明されたと聞く。ゲネが今回の発表を予想する最大の山場であることは間違いなく、僕もいつしか緊張していたような気もする。ゲネでは相当な苦労をしてまとめあげてきたものが聴け、ひとまず感謝し安堵したけれど、決定的な何かが足りない気もしたので、心に留めた。

ゲネ終わりで広瀬さんと石井さん、福島さんと僕とで最後の打ち合わせを。前もって作品の概念から各曲の留意すべき点は福島さんから丁寧に説明が為されていたので、自分はその、足りないナニモノかについて補足させてもらった。演奏家は、音と音の間で起こる些細な破綻の芽を瞬時に捉えそれを反射的に補正しようとしてしまう。けれど、それは今回の場合間違いだと言った。もともと両者が微妙な揺らぎを表出する作品であり、何よりも優先すべきは言うなれば2つのエンジンが「独自」に走っていること。それによって生じるはずの干渉帯がこの譜面全体にびっしり書かれてあるのだから、奏者はその破綻の微細な芽を無視してそのまま走って下さいとお願いした。まあ、実際にはもっとくだけて言ったのだけど、とにかくそういう真意でお話させてもらった。そしてもし、独自に走って作品自体が破綻しても良いと。そういった破綻なら歓迎しますとお話したように思う。もう、後は本番を待つより他はなく、広瀬さん、石井さんに委ねた。


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間に時間があったので、内山さんと僕たちとで新潟県万代島美術館に行った。学芸員の桐原さんとも約束していたので入館時にお会いし、そのまま作品を一緒に鑑賞させていただいた。桐原さんの注釈を得ながら鑑賞する作品はその鑑賞という行為が特別豊かになり、これはとても得難い経験だった。昨日の吉原さんといい、今回の桐原さんといい、なんとも自分は贅沢な時間を過ごせているなと思った。

**本番

「変容の対象」2011年1月−12月(世界初演
福島諭・濱地潤一 作曲

広瀬寿美(Cl)/石井朋子(Pf)



「変容の対象」2011の1月から静かに演奏は始まった。その頃にはもう、熱で寒気がし、頭も呆としていたけれど、音が始まった瞬間から意識は冴え、自身の内にある作品の音と壇上で奏でられる実際の音を同時に聴きながら12月まで曲間でガッツポーズ。しまいには口元から笑いもこぼれた。壇上でお二人の音が激しく干渉し合いながら大きな渦を巻き、閃光を放ち、生命が宿るのを聴いた。そこにはまさしく「音楽」があったし、今まで聴いたことのないナニモノかが確かに在った。後に聞くと福島さんは僕が笑っているのがわかったそうだ。あれが歓喜というのだろうか、、、と思った。
自身の作品で「嬉しい」といった感情が芽生えるのは今回が初めてだったし、それを福島さんに言ったら、福島さんの内にも「自分の作品に欲しかったものがそこにあったんです。変容がそうだとは、、、」と仰っていて、互いにこの初演がなんとも名状し難い初演であったことを喜びあった。

壇上にあがって順に石井さん、広瀬さんと握手をした瞬間の何とも言えない昂りを今も憶えている。

素晴らしい演奏をありがとう。最高でした。広瀬さん、石井さん。


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終演後、広瀬さんは用事があるとのことで、挨拶に来られて我々は再度讃えお別れしました。石井さんとはその後打ち上げで少し話せました。

**ご紹介
石井さんのトリオ。会話のなかで石井さんのラフマニノフのCDの話になったのだけれど、このトリオですね。ギャラリーの写真がなんとも素敵。トリオ・ベルガルモ。ドビュッシーコダーイバルトークコントラスト!(ですってよ福島さん!)もされているようです。素敵。
http://www.bellegarmo.com/index.html

メンバーのヴァイオリンの庄司愛さん、チェロの渋谷陽子さんも今回の「越の風」で演奏は拝見できました。


これも打ち上げでバリトンの野口雅史さんとお話も出来ました。私はどうしても人見知りで自ら壁をつくってしまうのですが、野口さんとはなんとなく自然にお話することが出来ました。野口さんの歌声は深く、印象に残っています。あの声で、グレゴリア聖歌を聴いてみたいと思ったりもしました。屈託の無い語り口は短い時間でしたが野口さんのお人柄が表れていて、やはりなんといっても人なんだと思わせてくれました。野口さんともまた機会があれば何かしたいですねと最後に握手をして別れました。


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人の人生はもしかしたらどんな人と出会えるかによるのではないか。私はそう思っています。今回の出会いに感謝します。




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実は今回実際に奏者が演奏して初めて表出した現象、新たな概念化の側面を少しばかり難解な言説で書かなければならないのですが、「変容の対象」という作品を論じるには今日はもう力が残っていません。いつか書きたいと思います。これは福島さんも書くはずです。


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以下は福島さんの文章。より精緻なレポートが読めます。


http://mimiz.org/index.php?ID=863


福島さんが写真を送ってくれた。

ゲネでのラオウ
ピアニスト 石井朋子さんと