hamaji junichi

composer saxophonist

変容の対象 5月 後記

福島諭さんとの作曲作品「変容の対象」も5月を終えた。
今月は冒頭から軽やかでイノセントな印象をもった音の組織が展開され、また今までとは違った作品になったと思う。前半から中盤は調性のはっきりとした安定感のあるものが展開され、中盤からは私の提示がどう肉付けされていくのか密かな楽しみがあったのも印象に残っている。
前半のあの感じ(つまり、軽やかでイノセントな感覚の曲想)は、福島さんから提示された動機が自分に作用して出てきたもので、つまり自分ひとりでの作曲では表出しなかったであろうものだ。じつは選択肢としては今回採用した音の組織とは別に、モノトーンを思わせる表現も採ることは可能であったと思う。でもそうしなかったはやはりこの「変容の対象」故であるからだと思う。2人の作曲者が居て、互いに音を譜面に定着させる作業というものがもたらす「モノ」のまだ少ししか経験は出来ていないが、そこにある困難さよりもむしろ今は、刺激されるという音楽を創るうえで推進力たらしめる主な衝動の方が自分には圧倒的に思える。もちろんそこに晦渋があり、困難な局面も多くあったのも事実だが、それを凌駕する「推進力」をより感じるのは「思いもよらぬ”視点”」が譜面という記号の集積によって伝わってくるからでもあるだろうと思ったりする。つまりそこには逃れ難い音の始点(視点)が提示されていてその支配下に互いに置かれる状況は実は「自由」を思わせる瞬間でもあるのは私感ではあるが確かであるようだ。抵抗感の無いという状態はつまりそれを基点とする足場の喪失を意味するのは、それとは別に一人で作曲している時の逃れ難い「不自由さ」と同居している枯渇感を思えばあきらかだ。その枯渇感が単独で作曲する時の推進力とも言えるが、「変容の対象」では、その枯渇感を開放する鍵が事前に用意されているということが言えるのかもしれない。