hamaji junichi

composer saxophonist

<<<私はそのころ耳を澄ますやうにして生きてゐた。>>>

安吾の「いづこへ」の冒頭である。もっとも美しい冒頭文として記憶していたのだけれど、どういうわけか、「白痴」の冒頭だと思い込んでいた。人の記憶とは随分あいまいであるなと思う。ただ、どうしてそのような思い込みをしていたのか、「白痴」は少なくとも数度は読んだはずだし、むしろ、「いづこへ」は1度か、2度読んだだけではないだろうか。「白痴」もしかし、もう20年は読んでいない。だからどこかで記憶の錯綜が生じ、そのもっとも美しい冒頭文と安吾のあまりにも有名な小説との印象が繋がってしまったのかな、、、と思う。自分は安吾の小説よりはむしろエッセイや評論の方にいたく感動した者なので「桜の森の満開の下」(勿論名作であるけれど)よりは「私は海を抱きしめていたい」の方に心を打たれた。私は海を抱きしめていたい、、、なんてとても美しい題名だと思うし、「風と光と二十のわたしと」という題名にも強くこころを動かされた。

ただそんなことを思い出したから書いた。