桑原ゆう作曲作品「馬頭琴の主題による変容」
作曲家・桑原ゆうさんの新しい作品を聴く事ができた。
ファッションブランドからの委嘱で、5月16日に中国で開催された2013A/Wのコレクションの為の作品。
http://www.apalog.com/yukuwabara/archive/135
その作品の録音、編集を朋友、作曲家の福島諭さんが行っていることと、その前後に桑原さんからメールをいただいた折、やりとりのなかでその作品を聴く機会を得た。
スコアはチェロ4本によるチェロ四重奏曲。
これを一人のチェロ奏者が各セクションを演奏し、多重録音、編集を施される手法がとられている。
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最初は前述の情報がないまま聴かせてもらった。で、これがね。超絶にかっこええのよ。まじで。
チェロという楽器を採用し、引用、テーマ、旋律のモチーフ、各セクションの造形が描く「全体」の、隅々に張り巡らされた作曲家の審美眼。
また多重録音の採用という背後の「文脈」はこの作品の成り立ちを極めて洗練されたものにし、それがひとつの成功の大きな要素となっていると感じた。
おそらく生のアンサンブル作品ではこういったセンシティブな情景は表出し得なかったのではないだろうか。
re-construct連続体。旋律はフォークロア的なロマンチシズムがクラシカルな厳格さ、手法で再構築されていて、作品の怜悧で重厚な運動にはっきりと甘美な誘惑の香りを一雫垂らしている。
実は全体に低通するその甘美な香り(それはほんとうに微かに添えられているのだが)が最も刺さった。
このようなエレガントの表出を可能にしたのはやはり桑原さんの頭脳であり、その作曲という行為の深淵さを思った。
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後に桑原さんから詳しい解説を含めた丁寧なメールをいただいた。
題名を聞いたところ、「馬頭琴の主題による変容」とのこと。
引用、旋律の出自、デザイナーからの要望、コレクションのテーマなども知る事ができた。
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桑原さんのこういった仕事は広大なクラシックから現代音楽の文脈に一つの光を指し示すものであるに違いない。
問答無用で「かっこええ」と思わせるのって、これ、凄いことだと思います。
そして福島さんのエンジニアリングと編集能力も特筆に値します。そしてチェロ奏者の方の仕事ぶりも。
http://mimiz.org/index.php?ID=962
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先のメールでは最後に桑原さんによるサクソフォンの作品の構想も書かれていた。
素晴らしい話である。