hamaji junichi

composer saxophonist

第18回文化庁メディア芸術祭 patrinia yellow

東京

今これを書いているのは3月はじめ。東京で福島諭さんの作品《BUNDLE IMPACTOR》の奏者として演奏したのが2月の6日。ほぼ1ヶ月経過したわけでどれだけのことが記憶にあるかは自分でも曖昧模糊としていて最早これを書くのも少し躊躇われるような気もしているけれど、福島さんの文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞の受賞は自分にとっても特別な意味をもっているし、やはり何か少し感じたことやそこで起こったことなどを書き留めるべきだと思い、ようやく時間が出来つつあるのでタイムラグの重みというか、抵抗感というかそういうものを感じながら今書いている。

2月5日に東京に入る。話では福島さんはもう、数日前に作品の展示の為に東京に入り、ずっと東京に滞在しているらしい。作品はクラリネットとコンピュータの為の《patrinia yellow》。この作品が受賞作品であり、初演は韓国で為された。その当時、スコアなどは初演時のすぐ後で僕はもらって見させてもらっていたはずだ。その後サクソフォンのver.も初演の為にもらっているからこの作品は自分にとってももう随分時間をともにしている作品とも言える。福島さんにメールし到着を知らせた後まずは国立新美術館に展示を見に行く。生憎の天気で冷たい雨が降っている。福島さんはクラリネットの鈴木生子さんとリハをやっているらしい。自分が展示を見終わる頃におちあい、メディア芸術祭関連イヴェントの第18回文化庁メディア芸術祭 テーマシンポジウム「メディアアートの記述は可能か?」を一緒に見る予定になっている。以下のシンポジューム。

日時:2月5日(木)15:00〜17:00 ※15分前開場
会場:国立新美術館 3階 講堂

定員:250名

出演:
上崎千慶應義塾大学アート・センター所員)
山口祥平(首都大学東京助教、インターローカル・アート・ネットワーク・センター[CIAN])
植松 由佳(アート部門審査委員/国立国際美術館主任研究員)
モデレーター:松井茂(アート部門選考委員/詩人/東京藝術大学芸術情報センター助教

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国立新美術館。会場に入る。独立した展示スペースに入り、中心に設置されたラップトップ画面を見た。max/mspのパッチが見える。今流れているのは曲の中程なので室内を回遊し音の確認と背面に展示されているスコアを見たりして曲が導入部にくるのを待った。数分後、作品が再度初めから再生される。ラップトップの正面に陣取り(その間も観覧者が入ったり出たりしている。)画面上のバッファにたまってゆくクラリネットの音の様子をずっと見ていた。音の組織は自分は頭に入っているから、音をなぞりながらバッファのアイコンを見た。音が積まれてゆく様子がグラフィック状に見える。全てのバッファ域に音が積み終えられ、2ndセクション前のPCソロパートに移る。和音が滞留し暫くその状態のまま持続し、2ndセクションが始まる。クラリネットの発音がトリガーになりバッファに積まれた音情報が解放され発音毎に夥しい変化を起こしながら様相は色彩の飛沫を飛ばす。激しい運動が起こっている。エントロピー、時間の不可逆性、あるいは、、、。惜しむらくはもう少し音量があっても良かった。他の展示との兼ね合いもあったそうだ。ラップトップ前の特殊形状の単体スピーカーは福島さんが依頼して高橋悠、高橋香苗両氏がデザインしたものだ。あのスピーカーからはクラリネットの音だけ出力されていたのを見た人はきちんと認識できたのだろうか、、、あれはすごく考えられた展示のされかたをしていた。演奏の形態を疑似体験できるように設計されている。中心の特殊形状スピーカーはクラリネット奏者。周囲にコンピュータ・プロセッシング出力スピーカー。頭脳であるラップトップ。全ての人が気付くわけはないけれど、ごく少数で良いからああいうことを気付いて観賞した人がいたら、、、と祈りたい。

その後、トレンチコートを着た福島さんと展示会場上のシンポジューム会場でおちあいシンポジュームを聞いた。最も興味深かったのはメディア芸術では作品が「リタイアする」という話。実に興味深かった。


その後六本木のsuperdeluxeへ。徒歩で。その道中、福島さんから5月の発表に関しての話を聞く。ラ・フォル・ジュルネ新潟2015。まだ詳しくは書けないけれど、道中のそのシーンがやけに記憶に残っている。静かないい時間だった。


第18回文化庁メディア芸術祭 ラウンジトーク&ライブパフォーマンス02
メディアアートの対抗知性/創造的ユーモア〜アート部門受賞作品発表会vol.1」

日時:2月5日(木)19:00〜22:30 ※15分前開場
会場:スーパー・デラックス

定員:250名

出演:
Ruben PATER(優秀賞『Drone Survival Guide』)
Ivan HENRIQUES(新人賞『Symbiotic Machine』)
Austin STEWART(審査委員会推薦作品『Second Livestock』)
植松 由佳(アート部門審査委員/国立国際美術館主任研究員)
佐藤 守弘(アート部門審査委員/視覚文化研究者/京都精華大学教授)

モデレーター:
工藤 健志(アート部門選考委員/青森県立美術館学芸員

言語:一部日英逐次通訳あり


このイヴェントを見て、解散した。お客さんの熱気が凄かった(質疑応答の様子で)のを覚えている。会場におられた植松 由佳さん(アート部門審査委員/国立国際美術館主任研究員)に先のシンポジュームの作品の「リタイア」について少しお話も聞けた。


6日。

朝。福島さんからメールが入り、譜面台のリークライトは必要だろうかと聞かれた。折り返し電話をし、昨年のsuper deluxeの演奏の記憶ではスポットをあててもらったから大丈夫かもしれないと答えたが、奏者も多いから念のため用意しますとなった。心配事は少しでも潰しておきたいのだろう。(結果用意して正解だった)
赤坂のスタジオに。伊藤さん、櫻田さん、山口さんは既に受け付けに居た。皆さんとは2013年のアサヒアートスクエア以来となる。リークライトの準備で福島さんが少し遅れてリハを。その後、会場のsuper deluxeに。







2月6日super deluxe
ラウンジトーク&ライブパフォーマンス03
「ポストメディウム時代のメディアアート〜アート部門受賞作品発表会vol.2」
アート部門の受賞者プレゼンテーション2回目となる今回は、優秀賞の受賞作家4組が一堂に介します。「動画」の定義までを刷新する作品『これは映画ではないらしい』(優秀賞)、坂本龍一氏との共作『センシング・ストリームズー不可視、不可聴』(優秀賞)について、アーティスト自身が解説。また、過去に2度の大賞を受賞する音楽家と建築家のユニットCod.Actも再来日します。さらに、クラリネットとコンピュータによる楽曲『《patrinia yellow》for Clarinet and Computer』(優秀賞)のライブパフォーマンスも行われる予定です。
日時
2月6日(金) 19:00-22:30
会場
スーパー・デラックス
定員
250名
出演
三輪 眞弘
アート部門審査委員/作曲家/情報科学芸術大学院大学IAMAS)教授
建畠 晢
運営委員/京都市立芸術大学
五島 一浩
アート部門優秀賞『これは映画ではないらしい』
福島 諭
アート部門優秀賞『《patrinia yellow》for Clarinet and Computer』
Cod.Act (Michel DÉCOSTERD / André DÉCOSTERD
アート部門優秀賞『Nyloïd』
真鍋 大度
アート部門優秀賞『センシング・ストリームズー不可視、不可聴』
モデレーター
鷲田 めるろ
アート部門選考委員/金沢21世紀美術館キュレーター
言語
一部日仏逐次通訳あり
参加方法

http://j-mediaarts.jp/events/event_talk#3_2



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ゲネに入る。途中で《patrinia yellow》奏者の鈴木生子さんが入られ福島さんから紹介を受ける。

開場前に皆で上島コーヒーに行く。(ここは去年の文化庁メディア芸術祭の関連イヴェントの時にも来たし、昨日も来た。福島さんと僕には最早馴染みの店になった)鈴木さんにelliott carterの譜面のことなど聞いた。以前鈴木さんのリサイタル公演のプログラムにカーターの2作品があったので折角なので聞いてみたかったのだ。譜面を見る機会もなかなか無いし、難解な譜面なのかと聞いたら「そうでもないですよ。普通に読める譜面です」とのことだった。皆さんどこかで繋がりがあるらしく、どこか親密な空気が流れていた。


そして発表へ。


 作曲・computer 福島諭
・《Patrinia Yellow》奏者 クラリネット 鈴木生子
・《BUNDLE IMPACTOR》奏者 クラリネット・伊藤めぐみ
              クラリネット・櫻田はるか
              オーボエ・山口裕加
              アルトサックス・濱地潤一 

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演奏も無事終わり、イヴェント最後の時間に福島さんのインタビュー形式の場がもたれた。内容は強度の高い極めて素晴らしいもの(決して大袈裟ではなく)で、ここで自分が書くのはあえて止めておく。福島さんの口から聞くべきものだからだ。作曲という行為を貫く怜悧な頭脳と眼差し、そこにある思想は会場にいらっしゃった方々はおそらく聞いた事がなかった「存在」を感じたと思う。


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7日。新宿のタワーレコードで現代音楽のコーナーだけを見、ディスクユニオン・クラシック館でmorton feldmanのCDを何枚か買って帰った。東京での日課だ。