hamaji junichi

composer saxophonist

モチーフからの発展

一通り日課を吹く。夕刻から急に寒さが増す。昨日夜中にレザージャケットにオイルを塗り皮の状態を整える。はっきり言って何の面白みもない生活で、衣服を整えるような作業はまだ何か救いを感じるわけだ。しかし、問題は肥えた体躯である、レザージャケットを身に着けるとはちきれんばかりであり、もし、僕が20世紀初頭のデカダンのフランスの詩人であるなら、自身の腹が気に入らないという理由だけで頸を吊る。

こんな逸話があって、貧しい詩人が居た。20世紀初頭のフランス。その詩人は貧困に埋没した生活をおくっていたけれど、自身が身に着けるシャツだけはいつも真っ白に洗濯し街にでた。それを何より大切に思っていて、空腹の極みにあっても食事よりはシャツを洗う洗剤を優先した。陽の暖かな午後は彼の心は躍った。自慢のシャツが太陽の陽に洗われ、風にそよぐのを飽くことなく眺める。詩は一篇も売れないけれど、彼を好いてくれる少女がいて食べ物を日ごと運んでくれた。その少女も裕福とは言い難いがつつましく暮らしており、彼の詩を読むのを何より楽しみにしていた。彼の新しい詩が出来ると、彼の横に座り丁寧にその詩を読んだ。彼はなんだか面映い思いで彼女の澄んだ声を聞く。その澄んだ声で彼が創作した詩を読まれると何か自分が随分りっぱな詩人であるような気さえするのだ。そんな声を彼女はもっていた。

貧しいけれどそんなつつましやかな生活は突然終わりを告げる。心無い隣人が物干し竿にあった彼の真っ白なシャツをずたずたに引き裂いた。その隣人は美しいその少女を好いており、詩人に深い嫉妬を抱いていた。それに隣人は職ももたず頽廃を気取っているその詩人を心から軽蔑していたので、ちょっと腹いせに詩人の大切にしていたシャツを引き裂いた。

シャツが引き裂かれた翌日、その詩人は部屋で頸を吊っていた。その引き裂かれた白いシャツで。