hamaji junichi

composer saxophonist

Time Flows 九十九

この世界が気に入らなければ、自らこの場から消えれば良い。究極の革命とはそういうものだ。革命を為してその後のうのうと生きながらえることを望むのはそれは都合の良過ぎる話というものだ。他人を救う傲慢さも、他人に迷惑をかけることもなく、静かに去れ。そんな世界(無論これは形而上の話に過ぎないのだけれど)であっても、ああ、生きていて良かったと思う瞬間がある。津上研太さんと数日ここ和歌山で過ごしたけれど、師との邂逅自体既に特別なものであるには違いないが、津上さんの演奏する姿を見て、一瞬去来したその美しい光景は今も自身の内部で輝いている。


15日。昼間、津上さんと市野さん、外山さんとお昼に行くため白浜「九十九荘」に迎えに行く。昨日は古久保くん夫妻と、ムラサキくんとともに高野山に行かれたそうだ。気持ちのよい日差しが燦々と降る海に面した道を行く。外山さんがぽつりと「ここにいると耳が楽なんだな。やっぱり低周波がないから。東京は自分で意識して聴かないようにしないと凄いから低周波とか、いろんな音がさ、、、」と言っていた。そういうものなんだな、、、と思いながら東京のあの騒々しさに埋没する自分を想像してみたりもした。お昼を食べ、車中で私の現象に対する悪態を炸裂させたりしながら九十九荘に帰る。皆でコーヒーを飲みながら色々話す。津上さんの書き下ろしの新曲「stream」の譜面も見せてもらった。以前来られた時は外山さんとはほとんど話せなかったが、今回は長く話を聞くことができ、その人となりを知る事も出来た。市野さんとは初めてお会いしたが、物腰の柔らかで誠実な人柄を知ることが出来た。ゆっくりとたゆたうような時間が過ぎてゆく。九十九荘の窓からは中庭に抜ける心地よい風が始終部屋を通り過ぎていった。


リハーサル。津上さんのサックスはセルマーのセリエIIIのゴールドプレート、マウスピースはセルマーのソロイスト・ショートシャンク。リードはヴァンドレンのトラディショナルを使われているそうだ。(サックスを吹く津上さんのファンがここを見るかもと思い書く。優れた演奏家のセッティングというものに興味の無い人はいないから)一音吹いたその瞬間から世界が変わる。奇跡はその瞬間にしか現れない。まさしくそんな音だった。


本番。


●5/15(水)
和歌山・南紀白浜「ミルク&ビアホール 九十九」
【市野元彦Time Flows】
市野元彦(Gt)外山明(Ds)津上研太(A.sax)



セカンドセットの途中。津上さんの吹く姿を見ながら、何故か遠い過去若かった自分が初めて津上さんの演奏を聴きに行った時の自身の心象(それはつまり強烈な羨望と憧憬、遥か彼方の、、、)とその光景が不意に去来した。「ああ、幸せとはこういうこのなのだ、、、」と恥ずかし気もなく純粋にそう思う自分がいて、その美しいものは暫く自身の内部で留まっていた。


個人的には白浜で津上さんの吹くコニッツの「subconscious-Lee」が、此所で鳴ったことに感慨もあった。

市野さんの極めて現代的なギター、外山さんのあのドラミング(皆さんご存知でしょう。あのものごっついの)津上さんのクールネスが複雑に機能するJAZZ。市野さんの曲「folk song」はきっと特別な何かだ。そして津上さんの新曲は帰ってからずっと今でも頭で鳴っているし、いつでも鳴らす事が可能なほど自身の内部にある。





皆さんが九十九荘に帰られてから、古久保くんと少し話した。もう外は明るくなっていた。(了)